NYダウが下落を続けている。日本株も6日連続で下げて1万5000円台を割り込んだ。アナリストが「米国金融引き締め後に株価の調整局面があるかも。それまでは株価の上昇は続く」といい加減な事を言ったハナからの下げだ。日本経済の見通しは依然見えないどころか、陰りさえ見えてきた。アベノミクスがスタートして2年もたたないうちに、「金融緩和は多くをもたらさない」という当初の警告が現実のものになりつつある。貴重な預貯金を短期的な投機につぎ込んでいると早晩破産する。

【米国FRBの危機収拾策を真似るだけ。無策の日本経済】
先日、金融機関の人間と世間話をしていたが、彼らの関心事はQEの行く末だった。
FRBは連邦公開市場委員会(FOMC)の声明を受けて、失業率動向をにらみながらオープンエンドだったQE3(量的緩和2012-450億㌦/月ベースの長期国債&MBS買入政策)の終了のタイミングを探っている。予定では今月終了だ。28日からFOMC会合が開催される。以前はQE4という話まであったくらいだ。だが、ここにきて、米シカゴ連銀エバンス総裁が来年初頭まで金融引き締め策を採るべきではないとの考えを示した。同氏は、QE依存から財政政策へのシフトも要求している。
つまり、それほど、米国経済の回復力は力強くないということだ。FRBが発表している米国の実質個人消費支出はリーマンショック前夜の07年水準に戻ってきているが、言葉を変えると、まだかろうじて、それだけに過ぎない段階だ。失業率は改善されているが、平均時給は横ばいで、労働参加率は史上最低規模。長期失業者(就労を諦めている人)が非常に多い。住宅担保証券のリスクもいつ表面化するかわからない。
10日からワシントンで開催されていたG20では、欧州経済と日本経済の鈍さが槍玉にあがった。先日のダウ下落もマーケットからの「悲観的」メッセージと受け止めることができる。QE終了は金融引き締めへのソフトランディングであったが、その行く末も危うくなっている。10日、「ナチスを真似ればいい」発言で有名になった財務相の麻生氏は、いつものように口をとんがらせながら、「米国の失業率は改善されているし…」となんの新鮮味もない情報を口にした。そのあとに何か意味ある情報が出るかと思いきや、何も無し、だ。

【人材を育てずに経済が育つか?】

もともとアベノミクスは、なんの熟慮も経ていないものだ。①金融緩和②財政政策③成長戦略の三本の矢というが、円安誘導ストーリーで動く市場が、期待感と思惑買いで日経平均を戻しただけである。多少利益を得るのは市場アクセス可能な人だけ。実際のところ、なんのオリジナリティもない。さらに言えば、新自由主義とケインズ政策のごちゃ混ぜだ。要するに、筋の通った批判を煙に巻き、封じ込めるという政治目的が先にありきだ。マネタリストでブッシュに拾われ、サブプライム危機からリーマンショックを引き起こし、墓穴を掘ってしまった元FRB議長バーナンキの真似。彼が、リーマンショックの危機収拾策でケインジアンに転向し実施したQE1(2009)~QE3の成果を、そのままそっくり真似ただけ。米国はサブプライムを抱えた金融危機からの脱出策でQEを採用したのだ。日本はサブプライムを殆ど抱えていない。政策動機が元々違う。だが、この「猿真似の礼賛」が、世界にまで悪影響を及ぼしている。エゴイスティックな目先の利益を求めるものが、タカ派の求心力を利用しながら、野党分散状態を奇貨として、空虚な経済政策を大仰に見せびらかしながら独走している。なんでもありの無節操政治が出来上がりつつある。

【アセット・バブル・エコノミー】
今頃になって日本人は「アベノミクスではJカーブ効果が生まれなかった」などというが、そんなものは、はじめから眼前にぶら下げられたニンジンだとわかっていながらメディアは一緒に踊ってきた。
アベノミクスが実現したのは日経平均1万円台越えだけ。昨年時点でアセット(A)バブル(B)エコノミー(E)=「ABE」(資産バブル経済)なる皮肉まで登場している。首相は「日本株を買って買って、割安だから」と世界中にセールスして回った。一国の首相が証券会社の営業マンよろしく、世界にお願いしてまわった。だが、その他の政策は、自力の努力分野でこれは希望的観測ばかり。さらには金融緩和をする一方での財政政策とか成長戦略って、結局一体何のこと?と言う、冷ややかな声もある。
いずれにしても、一般の真面目にコツコツ働く国民の生活にとっては、なんにもメリットはない。インフレターゲットを設定し、財政規律を度外視して紙幣を乱発するなど、高校生でも最初に思いつく仮説だ。日銀券をじゃぶじゃぶ印刷して、もし期待通りインフレになれば、あとで借金はちゃらにできるという、机上の空論・夢想で進めているが、そうはならない。アベノミクスは、日本を世界でもっとも財政規律の弱い国にしてしまった。日本が米国を真似して株高を演出することで、世界に間違ったメッセージが発信され、欧州経済圏の優等生・ドイツにも緩和策を押し付けることになりそうだ。みんなして馬鹿な政策になだれ込み、将来の破綻を準備しつつある。

【文化的モノカルチャーを醸成して成長の源泉を破壊】
以前「米国の最後の冒険に追随する安部政権」と書いた。「最後の冒険」とはQE3のことだが、今の日本の製造業は大手家電の開発現場をみてもイミティブイミテーションの時代にジワジワもどりつつある。ブレイクスルーが産み出せなくなったSONYの有り様にも象徴されている。人材育成に完全に失敗している。アナログ思考を軽視して、思考の源泉や自由な思惟、調和しない理念を認める多元性を軽視し、政治支配の都合からどんどん出る芽を摘み取ってきた。アベノミクスは、NHKなどへのメディア介NHKと政治権力 岩波現代文庫入も憚らないような、アベノカルチャー(単一文化的モノカルチャーを志向する歪んだ想念)を土台にしているゆえに、成功しない。人材育成と金融政策などは全く無縁。米国追随の発想自体が時代遅れだ。高生産性の製造業が発展し、その価値がサービスに移転しなければ内需など拡大しようがない。これは時代が変わっても変わらない法則だ。一方で、米国も日本も労働者への開発教育を怠り、リストラクチャリングや業績給の脅迫的人事支配を蔓延させ、創意工夫や開発・改善への内発的動機付けをサボり続けている。経済成長率を資本成長率が上回る構造が世界的に常態化しているのは、人財、人財といいつつ、実は人材を「財」としか考えず、「人間の質」を重視しない社会状況が広がりつつあることの証明である。

【演出される株高、危機は一気に来る】
日本株高もいつ終焉を迎えるかわからない状態だ。株高の一部は、ヘッジファンドなど大手機関投資家の値嵩株大量売買で見かけ上つくられている現象だ。ファンドが絡む少数銘柄の大量売買で、日経平均を100円以上高めに推移させるくらい、わけはない。要するに、売上高を稼ぐ必要に迫られた法人ギャンブラーの投機による「株芝居」である。タイのバーツ危機など一国の経済を崩壊に追い込む不正な力を持っている。

株高が政権への支持としてかろうじて効果があったのは、この10年余りで広がった金融商品への投機ブームとも無縁ではなかろう。郵便局を含むすべての金融機関が、リテイルに力をいれ、個人資産を大規模に投機資金へと向かわせてきた。資産価値の変動に一喜一憂する「人様にいえない事情」が固定票を構成する中高年有権者の心理をわしづかみにしている事情もある。「老害」ともいえる現象だ。早めに相場への関心を捨てて、まともな意識モードに切り替えないと、後々の世代に醜名を残すことになる。

【世界経済の不確実性を金融操作で乗り越えようとしている無謀】
アベノミクスの空虚な内実はじきに判明する。麻生氏は「米国のファンダメンタルズ」を口にするが、日本の失敗を今更ごまかしても遅い。米国の実質GDPは本年4-6月で4%越えだが、日本はマイナスである。金融政策だけで歓心をかっても、実業世界は全く変わりばえしない。何十年もサボってきた人材育成のツケが、いま、経済を支える人材のなさという形で噴出している。円安株高を経済回復と捉えさせる最大の罪は真面目にものを考え、コツコツと努力を積み上げて新しいものを創り出す人間精神を毀損する事だ。新しい発想は、他人の気持ちを豊かに想像する能力、枠組みに縛られない自由な発想力、社会的関係性を捉えることのできる柔軟な思考から生まれる。数年前から義務教育課程で無理やり武道を教えて精神主義を叩き込む第一次安部政権時の学習指導要領の稼動が始まっている。教育予算が削られ、現場の先生は時間に追われ、生活指導に時間をとられ、なんでもかんでも報告書を要求する非生産的な官僚体質に押しつぶされている。企業社会が期待するはずの教育制度の現場は、人間の質を本音では軽視している社会の非生産的な負のサイクルが回っている。

【企業経営を歪ませる補助金政策が、足腰をさらに弱める】

為替差益で大手輸出企業が財務上の利益を出しても、売り上げが伴わない企業活動に、中小企業は仕事が増えず、むしろ消費増税の犠牲転嫁と円安効果で苦しみ続けている。その窮状につけこんで「地方創生」という行政官僚が喜ぶ利益誘導が始まった。地方の役人だけが偉そうにできる補助金漬けの麻薬政策がしのびこもうとしている。民間企業の官僚依存に拍車がかかり、ますます企業の自力回復意欲と創意がそがれる。この麻薬に浸かると、ミクロではリストラ・倒産の危機が極端に増すことがあるから要注意だ。そんな経営の現実などうわのそら。既得権確保に走り回る困った議員さんたちだ。政府で必要のない仕事をつくって、歓心を買うしか、支持を取り付けるすべはない。その努力とは裏腹に支持率はジリジリと下がり続けている。

【空虚なグローバル化の掛け声】
欧州経済の不調に加え、リセッション入りが噂されるドイツ経済の不調を食らって、資金が日本の短期国債市場に流入している。金利は超低金利から短期国債ではマイナスとなった。だが、金融政策依存体質はかわりそうにない。ECBに大掛かりな金融緩和圧力が加えられるだろうが、その結末は更なる財政規律の緩みを促す欧州経済圏の弱体化だ。国際的にさまよえる流動資金の行き場として日本株の買いはあと少し進むだろうが、落ちる時はかなり激しくなるだろう。しかも、日本の実体経済は全く打開の道を見出していない。
企業収益の向上には即効薬などない。利益は商品・サービスが生み出し、売れる商品・サービスは比較的長い時間をかけて人が生み出す。そのヒトはといえば、日本の精神風土をみてもメタメタだ。論文偽装に、ヒラメ社員に、事なかれ主義に、日本的予定調和の風潮にかつてないほど拍車がかかっている。社会全体の倫理的崩壊は甚だしく緊張感がない。外国人に「死ね」などの下劣な言葉を投げつけて排斥し、日頃の憂さ晴らしをしている連中と仲良しの現政権。そんないびつな風潮に疑問提示の一つさえできずに、なんで格好よさげな「グローバル人材」「グローバルマーケティング」の成功などがありえようか。

【サービスに振り回される世界で豊かな創造性が無くなって行く】
貸し出し先が見当たらず困っている金融機関の悩みをあまり聞いたこともないのかもしれない。仕事を創り上げる人間は確実に減っている。8年ほど前に役所が流行らせたアントレプレナー講座は、予想通り失敗におわった。デジタルサービスに警戒を持たず、子供をスマホや携帯電話づけにし、料理や洗濯という家事は女性に押し付け、掃除もロボット任せにしたい。かと言って何か打ち込んでいるわけではない共感性の欠如した時間消費型の人間がおびただしく蔓延している。この様な中で、コミュニケーション障害に陥る人間が激増している。こんな情況を放置しておいて、なんで、企業活動が活性化しようか。明日の人を育てようという厳しさのある愛情も社会に欠落したままだ。
こんな日本の地方社会に蔓延する深刻な疲労は、一極集中の是正能力も持てず、関東一円で日本を見ている気になっている霞ヶ関には理解不能だろう。

【投資本に食らいつく人】
株価に一喜一憂している人々のあまりに多いことか? ラーメン屋さんやカフェで「投資本」を食い入るように読んでいる人々の姿を目にすることが多くなった。戦争体験者である親世代の痛みを継承することもなく、現状が永遠に続くと思い込んでいる面々だ。なぜ、日本という国が存在し、どう生かされてきたのか考えたこともない人びと。食うことには困らないが、やることを見失った人。他人のために自分の時間を公的に活用することなど考えたこともない情況。逆に弱者を食い物にする貧困ビジネスも大流行りだ。救済すべき公害被害者を冷遇し何億もの国債を買いあさり高額の退職金を引き当てる「救済基金」の姿もその象徴だ。自分の地位を最優先にすることが個人の自由だと勘違いし、歴史をなおざりにし、有意な人材の育成を怠り続けてきたツケ。世界史上最悪クラスの原発事故を引き起こした会社や責任者や国が「後処理が忙しい」を口実になんら責任を取らずに悠々自適でむしろ褒められたりする病理を免罪するツケ。こういうツケが社会をどんどん萎縮させる。他方で原理主義的イデオロギー勢力が伸張し、考えないモノカルチャー型人間がどんどん増えていく。全体主義の条件が準備されていく。環境破壊とテロ、果てしない自己領域拡大の欲望が人類を脅かす時代へじわじわと入ろうとしている。業績非連動の株高や為替差益を喜んでいる場合ではない。