能瀬英太郎 最新作「ひかりと影と」S
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『ひかりと影と
森永ヒ素ミルク中毒事件と被害者運動』
能瀬英太郎 著
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『ひかりと影と』を発表した動機について  
第1回(8回連載)
                   
フリールポライター
能瀬英太郎(岡山市在住)  

 森永ヒ素ミルク中毒事件史を書くのは難しい。多少被害者よりになるのは許してもらえるとしても、歴史の歪曲だと云われないようにするには、事実の正確な記述と出来事の取捨選択、優先順位をどうつけるかにかかっている。
 10年ひと昔というが、もう20年も前のことになってしまった。「平成の鬼平」こと中坊公平氏が世間からもてはやされたのは。当時は彼の書いたという本が、書店に山積みされていた。その中でも『中坊公平私の事件簿』(集英社2000年11月刊)はよく売れた方だろう。01年1月21日の朝日新聞読書欄「ベストセラー快読」で紹介されている記事を引用する。書いたのは評論家・芹沢俊介氏。
 書き出しは「中坊公平は正真正銘の現代のヒーローである。こどものころ、三百代言という言葉を聞いた。弁護士に対する辛辣な蔑称である。詭弁を弄する口先ばかりの代言人という意味であろうが、中坊は、庶民が抱くこのようなイメージを完全に拭い去った。……」で始まりこの本を礼賛することしきりである。出版から2か月余りで8刷23万3千部が売れたとあった。
 この頃私は「中坊本」がいくらあるか図書館で調べてみた。なんと30種類もあり、その多さにびっくりした。何冊か読んでみたが、内容の空疎なことといったらなかった。このころの彼は多忙を極めていたので、読んでみて「聞書き」を元につくられたようで、どれも同工異曲であった。なかには事実誤認があるので、出版社に訂正を申し入れたが返事はなかった。要するに出版社にとっては、内容はともかく「売れさえすれば」いいのである。
 ひどかったのはNHK出版の『野戦の指揮官・中坊公平』(2001年1月25日発行)であった。全体で270ページあり、約40ページを森永ヒ素ミルク中毒事件が占めている。これはテレビ番組を文章化したようだが、放送では気づかなかったことが、文章化するとみえてきた。問題がある個所は7つ、それぞれ抜き書きして著者の今井彰、首藤圭子氏宛てにFAXで質問をしたが、回答はなかった。今井氏は「ギャラクシー賞優秀賞」を2001年にこの作品で受賞している。「あとがきで」の最後で「人間・中坊公平を描いた本物の一冊だと信じている」と書いている。それほど自信があるなら、読者の疑問に素直に答えればいいのにと思った。無視するとはギャラクシー賞そのものの権威を失墜させることになる。
 中坊公平が流行すると、ブームに乗り遅れまいとあっちもこっちも競って出す。読者が食傷して「もうけっこう、もうけっこう」というまでやる。昨今の出版不況はこんな体質が影響しているかもしれない。表現の自由があるのだから、なんでもやればいいが、自分に都合のいいことだけを書いて事実をないがしろにすると、いつかは「しっぺ返し」がくる。  (続く)


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